Day The Day
音楽と絵と晴れの日さえあれば
多分 生きて行ける。
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A
少女Aは覚えていた
その幼児はまだ産まれて一年と満たなかった 母親と父親は彼女をとても大切にしていた 幼児は分かっていた 幼児は両親の愛情を全身で理解していた しかし幼児はこの愛が永遠に不変に続く物でない事を知っていた 幼児は伝えたい事があった 幼児は世界を見ていた 両親と同じ世界を見ていた 偽り無く世界をその目で確かに見ていた 幼児は全てを把握していた 幼児は全てのコンプレックスを目の当たりにしていた 幼児は全てを伝えたかった しかし術が無かった 言葉という記号への変換能力が無かった 言葉自体もなかった 今抱いている感情を具現化し他人という世界へ排出する術を知らなかった 幼児には言葉が必要だった この世界で普遍的な言葉と言う伝達方法が必要だった しかし幼児は分かっていた 言葉と言う術を学んだその時の自分は きっと今のこの感情は言葉と言う色に塗り替えられた似て非なる加工物になってしまう事を理解していた 幼児は目を瞑った 幼児は世界を喪した そして言葉を学び 今日今感じた感情を過去へと置き去りにして行く事を 幼児は選択せざるを得ない事を理解していた そうする事が俗に呼ばれる成長だということを そして誰もが自分がそうする事を望んでいる事も すべて把握し明日へと目を瞑る 少女Aは覚えていた 少女Aは5年前まで幼児だった 少女Aは5年を得てたくさんを知った 24時間を365日繰り返し5回それを応用した 少女Aは沢山を学んだ 少女 Aは世界の一部となった そして今日もその代償として5年前に置いて来た感情を愛おしく思いながら 均等に灰色に塗りたくられたモルタブに肌を擦るのだ 孵り道
そのとき教室は
むしむし 蒸し 蒸し していた 確か 「う へ へ」 私は机に突っ伏してスケベ笑いをした なぁに なに笑ってんの って友人達が声をかけてくる 「孵る」 「帰る?」 「違う!か え る の!生命が!」 俯せたまま大声を出したから 吐いた息で机の上が小さく曇る その楕円は まるで 「孵るって!なにが!?何隠してんの!?」 おなかのあたりにドッヂボールぐらいの大きさに巻かれた膝掛けを抱きしめて 私が突っ伏していたから みんなが何度も何度もそれを小突いた 駄目 駄目 壊れちゃう! って私は両手で阻止する 優しくそれが 壊れてしまわないように なによなによぉ 何拾って来たん! ってみんな気にしてたけど 先輩に呼ばれた だとか 先生のところに行かなきゃ行けない だとかでちりじりにどこかに行ってしまった 私はそっと顔を窓に向ける むしむし 蒸し 蒸し ムシ が私の肩にかかった髪あたりにまで入って来てじんわりと汗ばむ 窓の外で 雨はさらさらと落ちていく それは土へは還らない 中庭のコンクリートの溝に溜まって 排水溝を通って そのあと何処に行くのか 私はしらない はぁっ って息を吐いたけど それは窓まで届かず 小さな楕円はできなかった 私が窓に作りたかった 楕円は何処に行ったのだろう 「なぁ」 … 「なぁ」 … 「寝たん?」 … 寝てないよ 「起きてるやろ?」 ムシムシ 無視 「なぁ真剣になお前、ちょっと」 彼は 焦る 小声で私を起こそうとする 彼が私にだけ何かを伝えようとするその声に いつも胸が詰まる程のあたたかさを感じる よんじゅうにんじゃく の人間がいとなむこの部屋で 私にくれる 小さくて低い くぐもった声 「なぁほんまに頼むから」 私は彼の声が大好きだ 「お金はなんとかするから」 彼の声が 「産む なんて言うなよ」 好きだ 「姉ちゃんに相談してみるから、要らん事するなよ?ほんまに」 好きだから 「明日、また言うから」 行かないで はぁっ って息を吐く あなたが今吐いた息が たとえ楕円を描かなくても ちゃんとここに 小さな楕円がいるから だから ここにいて 私と一緒に 孵るのを見て って言いたかったけど 声も楕円と一緒にどっかに行ってしまった お願いだから 排水溝 には 飲まれてませんように て と ん
てとん 早く
と男は呼んだ どうやら既婚らしい 何度も行き来する車を見つめながら てとん は夜からはいあがった 店の中にはオレンヂがかった生暖かい蛍光灯が並び さっきまで僕らが居た夜が嘘のようだった 窓は無いのだよ と彼は言った 手際よくテーブルまで案内されると なれた様子で何かを頼んだ 「山よりは劣るかも知れないが ここの山菜料理も素晴らしいものだ このあたりで一番だよ あすこから本社までは片道2時間は有に越えるだろう?」 事実に僕は頷いた 「近くに評判の良いアパートがある 光熱費は気にしなくてかまわない この企画が終わるまでこちらに住まないか」 すぐに はい とは言えない それはだけは分かっていた それを伝えようとすると てとん が口を開いた 「窓が無いのに」 「外が見える」 外見以上に低い声で唸り そして僕を見た 「連れてきたのか?」 僕はなるべく冷静を装った 「少しばかり」 男は顔を歪め てとん はにやりと口を曲げた 体の奥からじわりと熱が湧いて 僕は鞄を握りしめた 『荘の荘での』 「始まりはてとんの口から」 より |
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Author:マリ 最近のコメント最近のトラックバック月別アーカイブブロとも申請フォームブログ内検索RSSフィードリンクPowered By FC2ブログOTHER |